佐藤想一郎物語『裏カジノから走って逃げ出した男』

「会社を辞めよう」

そう決めたのは、2013年、当時21歳の頃。

ノートパソコン1台で、場所に囚われず仕事をする「ノマド」のライフスタイルや、煌びやかな成功者の生活に憧れ、会社を抜け出し、ビジネスを始めた。

当時の目標は、お金と時間の自由、だった。

失敗もあったが、1年も経つと利益は1,000万円を突破。一時期は、売上が年間1億円近くなったこともある。

そのお金を使って、ビジネス書を大量に買って読んだり、高額セミナーに参加したりもした。

気づいたら家が1軒建つほどのお金を勉強に使っていた。

自然と、多くの人から相談をもらうようになった。

ビジネスや、恋愛、夫婦関係、スピリチュアルな相談など。「何屋」か分からなくなるほど、様々な相談に乗った。

ありがたいことに、今では心から信頼できる仲間や師に恵まれ、大変ながらも毎日幸せを実感できる日々を送らせていただいている。

このように書くと、ありきたりなストーリーに見えるかもしれない。

しかし、おそらく誰の人生に対しても言えるように、重要な瞬間は細かなエピソードに隠れていると思う。

その全てを書いていたら永遠に終わらないので、ここでは1つのキーワードを切り口に書いてみたい。

Magic

わたしの学生時代までの記憶は、「マジック」とセットで思い出される。

マジックとは、もちろん、マジックインキの方ではなく、「手品」の方だ。

初めてマジックに興味を持ったのは、小学生の頃だったと覚えている。

母親によると、おもちゃ屋にあるマジック用品(ネタ)を見て「それが欲しい!」と言ったそうだ。

すぐに練習して、そのマジックを親戚や母親に何度も見せた。

何回も同じマジック(ネタ)を見せられる側としては、退屈だったかもしれないが、わたしが子どもだったからか、みんな喜んで見てくれた。

わたしは喜んでもらえるのが嬉しくて、次第に本格的なマジックを勉強するようになった。

マジックが恋人になった。

トランプを握り締めたまま寝たり、マジック用のコインを持ったまま風呂に入ったり、という生活をするほど。

そのまま大人になり、衝撃的な事件が起こる。

“すごいとこ”

これは20歳の頃の話。

わたしは、ある社長さんと知り合う。

その社長は、キャバクラなどを何店舗も経営している大金持ち。

わたしは、その社長と仲良くなり、「世の中の裏の話」を聞かせてもらうようになった。

普段聞いたことのない刺激的な話を沢山教えてもらい、わたしはこの社長のことをもっと知りたい!と思うようになった。

── ある日、その社長は「すごいとこ連れて行ってやるよ」と言う。

わたしはそこに何があるのか知らず、その「すごいとこ」というキーワードに釣られて、ノコノコとついていく。

社長に連れられたのは、外見は何の変哲もない古びたマンション。

「一体このマンションで、何が見れるのだろう・・・?」

「すごいとこ」と言うからには、「すごい」のかと思っていたが、どう見ても普通のマンションだ。

エレベーターで上の階まで登る。やはり、普通のマンション。

社長は、ドアの前で止まりインターホンを押した。

誰の声が聞こえるでもなく、30秒ほど経つと、ガチャン・・・と鍵が開いた。

そろそろ「すごい何か」が見れるのかと期待し、ドアを開けると!

やはり、普通の廊下があった。

「一体、どういうことなのだろうか?」と思ったが、社長が無言だったため、何故かわたしも無言でついていく。

「すごいとこ」は、その奥の部屋のドアを開けた先にあったのだ。

別世界

部屋に入った瞬間、本気で別世界に来たのかと錯覚した。

最初に感じたのは、タバコの匂い。次に視界に入ってきたのは高級なインテリア。

椅子に何人かの男が座っている。

室内なのにサングラスをしている人や、高級そうな服を着ている人、黒いハットをかぶっている人がいる。

トランプがテーブルの上に並べられているが、一緒にチップ(コイン)も積み上げられているので、誰かがマジックを演じているではないことは確かだ。

ポーカー(トランプのゲーム)をしている、とすぐに分かった。

そのチップがどれくらいのお金に換金できるのかは分からない。しかし、大きなお金(現金)が動いていることは直感的に分かった。

カジノだ。

唖然としていると、横から「面白い話があるから、こっちに来て」と小声で聞こえた。

運命の分かれ道

社長はわたしを別室に連れていった。

大きな黒いソファーに向き合って座るなり、社長は言った。

「佐藤くんってマジックうまいじゃん?」

マジックと、この場所が、どんな繋がりがあるのか分からなかったが、次の一言で全てを悟った。

「このカジノで、イカサマをやってくれよ」

その社長は大きな体だが、少し声が高い。

「今日は、佐藤君の人生を大きく変える日になるだろう。一緒にひと儲けしよう」

社長は、具体的にどういうことをやるのかを説明した。

わたしが「新人のディーラー」というテイでカジノに入り、トランプのゲームをやる時に社長に有利な手札を渡し、社長が勝つように持っていく、という話だ。

つまり、「俺を勝たせろ」と。

おかしな話。

当時はそんなことを冷静に考えるまもなく、社長は、わたしの目の前に「札束の束」を置いて言う。

「カジノは儲かる。1回で何十万というお金が動くから、1日で大きなお金が手に入る。このお金で、うちのカジノで働いてくれ」

目の前にある札束は、1000万円なのか1億円なのか、想像もつかない。

しかし、次の瞬間に出てきた感情は、恐怖だ。

この頃は、まだビジネスで成功していないので、大金に対する耐性がなかったのだ。

それに、もしも万一、イカサマをしていることがバレたら……

社長は、わたしの不安を察知したのか、

「安心しろ。ここに来てるやつは皆大金持ちばかりで、ゲーム感覚でやってる奴らなんだ。ゲームで負けて少し損したからって、それで破産するやつはいない」

と、よく分からない理屈で、揺さぶってくる。

しかし、迫力はある。

黙っていると、さらに押してきた。

「佐藤くん、フツーに生きてるのはもう飽きただろ? そろそろ次のステージに行こう。もっと面白い世界を、いっぱい見せてやる」

社長は、前屈みになり、細く鋭い目でわたしをじっと見た。

断ったら、もしかしたら口封じに何かされるんじゃないか? だったら、この話に乗っかって、一発稼いでみるのもアリなんじゃないか?

しかし、一回これに手を出したら、もう後には引けないのではないか、という怖さは消えなかった。

口の中が乾いている。

どうにか、「少しだけ考えさせてください」とだけ言葉を出して、その個室を出る。

タバコの煙で頭がくらくらする。

カジノでゲームをやっている人達が見える。

「この人たちを騙す……?」

突然、手足が震える。

「自分は、こんなことをやるために、マジックを練習してきたのだろうか?」

ふと、過去の記憶が蘇る。

マジックを演じてる時の、家族や友人が喜んでいる顔を思い出した。

涙が出た。

「自分は、マジックを通じて、皆を驚かせて、笑顔になっていくのを見たかったんだ。こんな黒い世界に身を染めたら、もう一生、元に戻れなくなってしまう」

気づいたら、全力で走って逃げ出していた。

心にポッカリ開いた穴

それからというものの、マジックをあまり演じなくなった。

20年以上も続けていたマジックと、自然と距離をとるようになったのは、大きな変化だ。

ショックを受けたのも、やめた理由の1つだが、それ以上に大きな理由がある。

マジックはエンターテインメントとして、素敵だと思うし、今でもマジックを見るとワクワクする。

ただ自分の本心(魂)が求めているものではない、と気付き始めた。

マジックを始めてから、ずっと「本物のマジックとは何か?」を探求してきたように思う。

最初はトランプを使ったマジックをしていたが、「どうせ仕掛けがあるんでしょ」と言われるのが嫌だった。

それで徐々に道具を使わないマジックをするようになった。

最終的には、メンタルマジックという、超能力系のマジックをするようになるが、それも、求めている「本物のマジック」ではないと感じた。

そんな迷いが生じている状態で、マジックはできない。

ましてイカサマをしそうになった自分がマジシャンになるなんて、おかしい。

……そう思っていた。

それからのわたしは、しばらくぼーっと過ごす毎日を送った。適当にアルバイトをしながら暮らす。

同じ人と、同じ場所で、同じ時間に、同じことを繰り返す日々。

ちょっぴり楽しいことはあるけれど、景色は、グレーに見えて、驚くほどあっという間に時間が過ぎ去った。

同時に、異変も起こる。

胸の奥の深いところから、『このままの人生ではいけない』という言葉が浮かんでくるのである。

心にポッカリと穴が開いたようで、落ち着かない。

そこで何を思ったのか、ビジネスを始めることにした。

「何をするにしても、お金が必要だ!」と思っていたのもあるが、正直なところ、紛らわすためならなんでも良かったのかもしれない。

成功(?)

カタカタ、カタカタ・・・

わたしはGoogleの検索窓に「稼ぐ 方法」「インターネットビジネス」「アフィリエイト」といったワードを打ち込むのが習慣になっていた。

ネット起業家の成功体験を見ては、すごいなぁ、と感動する。

しかし、どうも胡散臭い。そもそもビジネスの経験もない自分にできるのだろうか。

「そんなあなたにもできますよ!」と書いてる。それが余計に胡散臭い。

ただ明らかに他の人と違うことを書いている起業家を見つけた。

その人を、ここではYさんとする。

Yさんは、ネットビジネスの世界では非常に有名で、パソコン1台で初年度で数億円以上を稼いだという。

それくらいの実績は他のサイトでも見たことがあるが、書いてある文章が知的で、世界観に魅せられた。

「こんなすごい世界があるんだ!」と興奮したわたしは、Yさんのノウハウを実践することにした(一度何かを始めると、早い)。

結論から言う。

途中失敗はあったものの、3年くらいかけて1億円を売り上げるところまでいった。

ほとんど1人で、大金を手に入れてしまったのである。

最初はとても楽しく感じた。

国内海外問わず旅行に行ったり、ものすごいお金持ちの人と遊んだり、いろんな高額セミナーに参加したり、高級ホテルに泊まったり。

……しかし、望んでいた未来とは違った。

それだけお金や時間を得ても、ぽっかりと心に穴が空いたような、そんな虚しい気持ちが消えなかったのである。

もちろん、一時的には楽しいことはある。

ただ「本当に求めていた人生なのか」と問われると、全力でイエス!とは言えなかった。

どこかに、まだ真実が、答えが、あるのではないか。

人生の転機

そんなある日、Yさんからメルマガが届いた。

「スピリチュアルとビジネスを融合させる講座を始めようと思います」といった内容だった。

「スピリチュアル的なものは嫌いじゃないけど、それがビジネスとどう繋がるんだろう?」

本音を言うと内容に惹かれたわけではないが、なにか「ピン!」ときて、その直感を信じて講座に参加することにした。

講座の内容は、スピリチュアルと言っても日本人にフィットした神道をベースとしたものだった。

神道は、「日本人が善い生き方をするにはどうすれば良いか?」を教えてくれているもの。

学ぶうちに、食生活が変わり、部屋が綺麗になり、健康になり、人間関係が変わり、働き方が大きく変わり……

そして、本当に信頼しあえる家族のような仲間や、一生この人についていきたいと思える師とのご縁もいただいた。

「稼ぐだけが人生じゃない」とよく聞くが、実体験を通して本気でそう思えるようになった。

(このあたりの話は長くなるので、詳しくはまた別の機会に。)

そうして考え方が変化することで、気付いた。

昔は、純粋に「皆を喜ばせたい」「サプライズしたい」と思っていたのに、いつしか、お金を沢山稼いで成功することばかり考えていた。だから、何かを失ったような感覚にずっと襲われていたのだ、と。

あらためて原点にかえって、「純粋に、みんなに喜んでもらいたい」と思うようになったときに、体の内側から膨大なエネルギー(気力)が溢れ出てきた。

心が熱くなり、その炎は寝ても覚めても消えなくなった。

もう1つ気づいたことがある。

それまでは、マジックはもう黒歴史だから封印しよう、と思っていた。

しかし、Yさんから「マジック自体をやるかどうかは別として、マジシャンだった経験は絶対に生かせるよ」と言っていただいて、考え方が変わった。

マジックは、お客さんの微細な反応を読み取ったり、皆が喜ぶためにどうすれば良いか?を毎回必死に考えたりしながら、見せていく「ショー」である。

「これって、ブログやメルマガで発信するときも、人前で話すときも大事な感覚だし、今の活動にも活かせるじゃないか。そうか、マジックの経験があったからこそ、今があったんだ!」

と過去と現在が繋がり、これまでの全ての経験に感謝できるようになった。

本物のマジック

そして、ようやく。

寄り道はしたが、探し求めていた「本物のマジック」とは何かに気づき始めた。

── それは、人生そのものに、魔法のような奇跡を起こすこと。

それが出来るなら、手段はマジックであろうと、ビジネスであろうと、なんでも良いことに、気づいた。

それからわたしは、「精神世界」や「気」「帝王学」「ヨーガ」「占い」などを学び、本当に魔法のような世界が存在することを知る。

他には、心理学、神話学、思想哲学、健康法、錬金術など、主に目では見えない世界のことを学んでいった。

昔の錬金術師や、本物の魔術師がやろうとしていたことも知った。

そんな中、9つの占いを極め、その源流とも言える宗家(本家)の方とも出会い、世界の秘密を直接教えていただくことにもなった。

そして、本物の魔法は、どこか遠く離れているところではなく、「日常の延長線上」にあることを知る。

誰かとの会話や、自然、偶然起こった出来事・・・

その気になれば、そのあたりに落ちている「石ころ」1つからでも魔法のような世界を感じることができる。

たとえば、普段使っている「言葉」ひとつとっても、

・どうやって言葉を発するか
・どんな気持ちや思いを乗せるか
・言葉にはどんな意味があるのか
など

突き詰めていけば、発する言葉は呪いにも祝福にもなる。

その言葉で、自分のやる気を高めたり、他の人を助けたりすることもできる。

しかし、全ての「ちから」はネガティブな方向に使えば、世界を滅ぼすこともできてしまう。

特に魔法は危険である。

黒魔術

実は、あまり知られていないが、今の世界を支配しているロジックが、そもそも黒魔術的。

「いかに他者よりも上に立ち、勝ち上がるか?」という思考プログラムを、いつの間にか刷り込まれる。

そのせいで「なんで愛されないんだろう」「どうして自分だけこんなに不幸なんだろう」「もっと成功しないと」といった具合に、自分を見失いやすい。

そう、黒魔術とは、力による支配と依存の構造。

この魔術にかかると、「自分がよければ、他の人がどうなってもいい」と、心のどこかでは(無意識に)思ってしまう。

「何かを手に入れれば幸せになれる」という幻想を持たされ、消費行動を起こし続けるが、いつまでも満たされない。

いつまでも満たされないから、また何かを求め続ける。

すると、お金がかかるから、働き続けなければならない。

その負のスパイラルに巻き込まれてしまう。

このような「当たり前」を疑うセンスがなければ、黒魔術にかかりっぱなし。

それが「悪い」かと言ったら、全否定はしない。

その黒魔術によって、世界は豊かになってきた側面もあるからだ。

しかし、どうせなら、もっと美しい、人々を幸せにする道を追求していきたいと思う。

リアル・イリュージョン

少し壮大な話になってしまった。

しかし、本当はみんな、忘れているだけで魔法のような力を「元々」持っているのだ。

それは、本当にピンチの時や、本気の時、あるいは人の幸せを心から祈ったときに実感するかもしれない。

まるで何かに守られているとしか思えないような奇跡。

一体感。

幸福感。

この際、魔法があるかないかは、どっちでもいい。

まるで魔法があるとしか信じられないような体験をしてもらいたいと思う。

もしも、そんな奇跡を毎日のように起こすことができたら、面白いと思わないだろうか?

……しかしそんな奇跡も、1人で実現できるとは思っていない。

黒魔術優位の社会で、そんな奇跡を起こすには、もっと多くの人の協力が必要である。

そして、みんなで奇跡のようなマジックを演じられたらと思う。

友だち追加