環境が目まぐるしく変化する時代になりました。企業にも、その中で働く従業員にも変化への対応力 が求められるようになり、OJTやOff-JTの研修だけでは間に合わなくなってきました。
従業員個人が自ら学び成長する自己啓発への期待が大きくなり、現在では多くの企業でキャリア形成の一環として従業員に自己啓発を推奨する制度が設けられています。
ところが、日本能率協会マネジメントセンターの『「自己啓発支援制度」に関する実態調査報告書2015』によると、自己啓発の受講率の平均値はたった20.1%しかないそうです。8割の従業員はせっかく費用補助などの制度があるにも関わらす利用していない という事になります。
従業員の意識を高め、自己啓発を促すことは企業が成果を上げていくための重要な課題です。自ら学んでもらうには、企業の人事部門・研修の担当者はどうすれば良いのでしょうか?
なぜ無料でも社員は自己啓発をしないのか
私も以前、中小企業の総務をしていたころ、会社の福利厚生として導入されていた通信教育の自己啓発プログラムの「受講率を上げる係」を担当していました。
費用は全て会社持ちで、従業員ならば社員もアルバイトも全員が無料で視聴できる という制度でコンテンツも大変素晴らしいものでした。社内報やメールで告知を行い、朝礼でもたびたび案内し、個別対応での声がけなども行っていました。
しかし、数百人の従業員がいるにも関わらず視聴履歴はポツリポツリという程度で、おそらく5%にも達していなかったと思います。周知を行うとその時は一瞬反応がありましたが、継続的に受講してもらうまでには至りませんでした。
その後、私はコピーライターとして独立し、自主開催セミナーや勉強会の集客を行うようになりました。そこで気づいたのは、確かに無料セミナーは人が集まりやすいですが、数千円~数万円の有料セミナーでも参加する人は参加するし、無料でも来ない人は来ない 、ということでした。
当たり前と言えば当たり前なんですけれども、それでなぜ以前のやり方では受講率が低かったのか理由が分かりました。あること が抜け落ちていると、たとえ無料でも人は行動しないのです。
この記事では、企業の自己啓発を促す取り組みについて自己啓発にかかる費用を企業が補助実施状況の概要と導入事例をまとめ、元総務のコピーライター・セミナー講師の視点から自己啓発の受講率の低さを改善するためのアプローチ方法について提案します。
人事ご担当者様が自己啓発の制度活用率を上げるため、少しでもご参考にしていただければ幸いです。
企業内教育・福利厚生の自己啓発
自己啓発は、そもそも「自分の意思で」自分を高めようと学ぶことですから、企業が強制した時点でそれは既に本来の自己啓発ではなくなってしまいます。また、業務時間外のプライベートな時間に行われる点でも、強制が難しい 意味もあります。
そこで、企業では自己啓発を「福利厚生」と位置付けて、キャリアアップ・スキルアップを奨励しています。具体的には、以下のような施策が取られています。
自己啓発にかかる費用の補助
書籍代、セミナー・研修受講費用、資格取得費用など自己啓発にかかる費用の一部または全部を企業が負担するもの。eラーニング・通信教育の教材提供、資格手当なども費用補助に相当します。
自己啓発のための時間的配慮
勉強する時間が取れるように残業を減らす取り組みや、検定試験日に休みを調整、自己啓発のための長期休暇などの時間的配慮 を行っている企業もあります。
表彰・スキルアップ奨励金
意欲を高めるために、独自の表彰制度や奨励金を設ける、コンテストを行うなど。
ユニークな制度導入例
ここで、面白い自己啓発を行っている企業の事例をいくつかご紹介しましょう。
Googleの20%ルール
Googleでは、業務時間内の内の20%を業務外のことに使わなければならないという20%ルールがあります。「使っても良い」ではなく「使わなければならない」義務なのがポイント。業務時間内ならば従業員は従わざるを得ませんね。
これによりGmailやAdWords、Docsなどの革新的なサービスが生み出され、20%ルールは「Googleのイノベーションの源泉」と言われるようになり、Yahoo!やミクシィなどでも同様の制度が導入されました。
退職後6年間復帰可能!育自分休暇制度
ソフトウェア開発会社の「サイボウズ」では、いったん退社して最大6年間自分磨きに専念していつでも職場復帰できる「育自分休暇」という制度を導入しています。
期間中に転職しても良く、留学、青年海外協力隊への参加など、長期間をかけて自分を成長させる体験が可能。
「退職」なのでその間の給料はもらえませんが、「研修」内容を会社に報告する義務もないそうです。6年間は職場復帰を保証 され、戻りたくなければそのまま辞めても構いません。
会社が通信教育を強制したら「自己啓発」じゃない!
それでは本題に入りましょう。自己啓発の推奨制度が活用されない理由は何でしょうか?
ここでは、主にeラーニングや通信教材などの利用 をイメージしてお伝えしていきますが、外部セミナー参加や読書などについても同様のことは言えると思います。
もしも学ぶための時間的・金銭的な余裕があるにも関わらず自己啓発のしくみが使われていないとしたら、それは「物が売れない」ということと同じ原理 が働いているかもしれません。
物が売れない時には、大きく分けて3つの理由があります。
- 商品が悪い
- 良さが伝わっていない
- 信頼がない
信頼はあるという前提で、1と2について自己啓発を促すアプローチ方法を考えてみましょう。
1 自己啓発の研修メニューは適切か
まず1つ目の「商品が悪い」については、通信教育などのプログラム内容が従業員にとって価値のあるものなのか、ニーズに合致しているのかを再検討する必要があるでしょう。
『「自己啓発支援制度」に関する実態調査報告書2015』の調査結果によると、近年人気が上昇している自己啓発のカテゴリは「ビジネススキル」「ヒューマンスキル」 で、逆に人気が下がっているのは「資格」「IT・パソコン」だったそうです。こういった調査も参考にしながら、自社の現場の声も細かく拾っていく必要があります。
実務に直結する部分は興味を持ちやすいようです。また、あくまでも肌感覚でしかありませんが「願望実現」や「自分を変える」というコンセプトや「副業」関連セミナーは必ず人が集まります。業務に関する部分だけでなく、従業員の人生の質を全体的に上げるような自己啓発メニュー を考えてみるのはいかがでしょうか。従業員の幸福度が上がれば、結果的に仕事の成果も上がり、離職率も減るはずです。
2 学ぶ必要性が理解されているか
2つ目の「良さが伝わっていない」に関して言うと、そもそも学ぶ必要があるということが理解されていないと、どんなに素晴らしい自己啓発プログラムでも見向きもされません。
募集や案内の周知方法を工夫する、ということも必要ですが、一人ひとりの心に火をつけるためには最終的には個別対応 になるのではないかと思います。
従業員が働く目的も、人生の目標も人それぞれだからです。
たとえば、趣味に生きる人で、会社では最低限の給料を稼げればよく、キャリアアップや昇進には全く興味がない、1分でも残業はしたくないし、休日に仕事のことなんか考えたくない、という人もいるでしょう。
せっかく自己啓発の制度や通信教育のガイドブックを渡しても、そんなのは最初から読まれません 。
そういう人に強制ではなく、自主的な受講を促すためには、学ぶことが「その人の人生を良くする」ということを理解してもらわなければいけません。
そのためには、その人がどういう価値観で、その趣味にどんな生きがいを持っているのか、どんなライフスタイルを大切にしているのか、これからどうなっていきたいのか、を深く理解した上で、自己啓発がその役に立てるということを、その人に合った形で伝える必要 があります。
いくら「表彰されますよ」「昇給しますよ」と言われても全く興味がなかった人が、「自己統制力を高めるセルフコントロールのスキルは、仕事だけじゃなく、あなたの趣味のスポーツにも重要なことなんですよ」とか、単に「これすごい面白いよ」とか言われただけで変わる可能性があるのです。
自分にとってのメリットを理解すれば、後は勝手に頑張って勉強しようと行動する ようになるのです。故に、1対多ではなく1対1で伝える方が強力です。
大企業などでどうしても個別対応が困難な場合は、色んな人のパターンを想定してひたすら「学ぶこと」のメリットを発信しましょう。仕事に役立つとか、お金が補助されるというだけでなく、学ぶことによって人生がどう良くなるのかを伝えていくと良いでしょう。
仕事と人生については、「仕事をする意味を見出す9つの質問。「働きがい」は自分で決める!」もご参考にしてください。
GLOBOな視点・若い人が仕事に求めるものの傾向
最近の20代の若い人、ゆとり世代と呼ばれる人たちの傾向としては、「自分が輝ける場所を探したい 」ということを仕事にも求めるようです。
体育会系なトップダウンの組織になじめず居づらさを感じてしまったり、自分の好きな仕事や能力が活かせる仕事ができていないと感じたりして、ちょっと怒られたりトラブルがあったりすると自信を無くして「この会社違ったかも…」となってしまいます。
その一方で、社外でボランティア活動をしていたり、英会話や資格の勉強にいそしんだりと自己啓発意欲は旺盛 です。
そんな彼らへのアプローチとして、大学の専門分野や趣味・特技、勉強したことや読んだ本を先輩社員も含めた社内の人たちに「研修」してもらうという方法があります。
新人さんでも役割を与えられ、専門知識を活かして必要とされていることが実感でき、会社に自分の居場所がある と感じてもらえます。また、先輩たちも新人さんから学ぶ大切さを学ぶ いい機会になるかもしれません。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。管理人の佐藤想一郎と申します。
私が執筆しました、レポート『Cycle(サイクル)』では、今まであまり語られることのなかった〝引き寄せの法則の、もう1つの側面〟について書いています。
・「ワクワク」のダークサイド(暗黒面)とは
・9割の人が見落とす〝引き寄せられない〟根本原因
・想像すら超えた未来を引き寄せる、運命を変える秘訣
といったことにも触れています。
よろしければ読んでみてくださいね。
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