抽象思考とは、物事から具体的な枝葉の部分をそぎ落として本質に向かう思考法です。
たとえば、ニワトリは抽象的な概念です。具体的に物体として存在するのは、一羽一羽の「このブロイラー」とか「このチャボ」のようにそれぞれ違う個体であり、「ニワトリという物」はありません。
鳥の中でも似た仲間を集めて「ブロイラー」や「チャボ」という品種になり、その品種もまとめて「ニワトリ」という概念が出来上がっています。さらに、インコやスズメ、タカ、ダチョウなんかもひっくるめたのが「鳥」という概念です。
「鳥」と言われた時には何となく、羽が生えていてクチバシがあって、というぼんやりとしたイメージを持つでしょう。「ニワトリ」になると、赤いトサカがあって羽毛は白くて、足は黄色い、という特徴が加わりますね。
さらに、ブロイラーは白っぽくて卵をたくさん産む、チャボは体が小さくて茶色っぽい、などの品種ごとの特徴があり、一羽ずつ「そのブロイラー」を見ていけばトサカの形や、性格などの細かい違いが出てきます。
抽象思考は、
ブロイラーやチャボ → ニワトリ → 鳥
のように細かい違いを考えず、より大きな枠で考えていきます。特徴を捨てるので、捨象とも言われます。
反対に、
ブロイラーやチャボ ← ニワトリ ← 鳥
と特徴の違いに注目して細かく分類していくのが具体的思考です。
抽象思考能力は、言わば「見えないものを見る力」「一から十を知る力」 となります。会話や文章の行間や背景に含まれる膨大な情報を知ることができ、勉強やコミュニケーションなどで有利になる場面が多く、映画や小説などを何倍も楽しむことができます。
しかし、この抽象思考は学校の勉強ではほとんど習いません。ニワトリぐらいなら簡単ですが、生活や仕事の中で起きる出来事を抽象的に考えるには少し練習が必要です。
ここでは、抽象思考を訓練する意味、抽象思考で得られる「統合された知識」について、そして日常生活でできる抽象思考トレーニング方法についてまとめました。
目次
抽象思考をトレーニングする意味
説明が上手になる
抽象思考で物事の本質を掴むと、一見して異質なものを結びつけることができます。
たとえば、何十年も趣味で書道を続けて来たという人は、書道以外の仕事などにも書道の考え方を使っていると言っていました。
書道では「臨書」と言って、昔の名高い書家の筆跡をお手本にして書く練習をします。その時に、平面的な文字の画像としてだけではなく、筆を運ぶ緩急や息遣いまでも感じながら感覚を掴むのだそうです。
臨書の習得プロセスを他のことにも応用していると言います。
ある人は料理に詳しく、ある人はアニメや漫画を大量に読み、またある人は合コンをしまくって、誰でも何か自分の中で得意分野を持っています。何事もすぐに飽きて続かないという人も、「初めてのことのコツの掴み方」が得意なのかもしれません。
そして、得意分野を名人級に深めている人同士は、分野を超えて話が通じる と言います。たとえば茶道の師範とプロ野球の監督が対談をしたら、すごい人生哲学が出てきそうですよね。本質に近づいているため、関係のない分野でも自分の知識や経験と繋げることができるのです。
この抽象思考能力が本領を発揮するのは、自分の専門領域をあまり知らない人に説明するときです。聞き手の頭の中にある知識や経験と、新しく伝えたい物事をリンクさせることができると、聞き手にとっては非常にイメージしやすくなり、分かりやすいと感じられます。
1対1の対面で話すときには、話し相手の得意分野に合わせて例え話しをします。たとえば、「人生でやるべきことを後回しにしていると後で大変なことになりますよ」と伝えたいときに、相手が料理の好きな人なら
「料理をしながら、使った道具や容器など洗い物をどんどんシンクに溜めていくと最後の片づけは大変なことになりますよね。合間にチャチャッと片付けながら料理すれば後で楽になります。人生も同じです」
のようにします。
1対多で説明をする場合は、その場の人に共通の経験やその場にある物などで例えると全員に分かりやすくなります。
「夏休みの宿題は、毎日少しずつやっていればどうってことありませんが、始業式の前の晩になって一気に片付けようとすると徹夜の作業になりますよね。人生では始業式の日はもう死ぬ時です」
なんていう比喩が成り立ちます。
抽象思考ができるほど、一つのことからより多くのたとえ話をすることができ、相手に合わせて分かりやすく話せる説明上手になれます。
視点の切り替えで問題能力が上がる
抽象思考を鍛えると、問題の本質を見抜く力がアップして解決に役立ちます。
たとえば、あなたがスーパーの特売肉の最後の1パックを取ろうとしたら、見知らぬ中年の女性と取り合いになってしまったとします。間違いなくあなたのほうが先に手を触れていたはずなのですが、相手は「横入りされた」と主張しています。
難癖を付けられてムカっとしてしまいますし、肉なんかで揉めるなんて恥ずかしいし、なんだか嫌な感じですよね。
そこで、抽象思考を使ってみましょう。 「あなた」と「見知らぬ中年の女性」の特徴を取り払って、どちらもただの人間とします。区別がつくように、AさんとBさん にしておきます。「スーパーの特売肉の最後の1パック」も、抽象化して物体X とします。
すると、AさんとBさんがXの権利を争っている 、ということになります。
なんだか他人事のようになった感じがしませんか? 少し引きで見ることによって、当事者としての感情をひとまず脇に置いて考えることができます。
そして、「AさんとBさんがXの権利を争っている」という構図はほかの場面でもよく見かけます。2つの国がある島の領有権を争うのも、PPAPの商標権を争うのも、スーパーの特売肉の最後の1パックの問題と本質的には変わりがありません。
枝葉の細かい情報に惑わされずに、本質思考で問題の本質を把握することが解決への糸口になります。
情報の圧縮、一から十を知れる
抽象思考は、膨大なデータ量を圧縮することができます。そんなに勉強していないのに聡明で何でも知っているように思われる人は、この抽象思考が得意なのかもしれません。
たとえば、抽象絵画をご覧になったことはありますか?
ニワトリなのかネコなのか何の絵だかさっぱり分からない図を、「これはニワトリの絵だな」と見る人が具体的思考によって分類すると、それは「ニワトリの絵」になります。
しかし、「ニワトリかもしれないし、ネコかもしれない。この絵からは、なんとなく活動的な印象を受けるなあ。この画家は愉快な気分で描いたのかな」のように分類しないで抽象的なままにしておくと、より多くの情報を受け取ることができます。
もう一つ別の例で考えてみましょう。子供のころに楽しんでみたジブリのアニメなんかを大人になってからまた見てみると、全く別の印象を受けることがあります。
ナウシカが腐海の森の下に落ちたのは潜在意識へのインナートラベルを表しているんじゃないかと深読みしてみたり、子供のころは嫌な人に見えたクロトワさんが中間管理職としてなかなかに優秀な働きをしていることが見えてきたり。クシャナ殿下の「わが夫となるものは云々」というセリフの意味も理解しました。
大人になって知識や経験が増えて抽象度が上がり、アニメの中身と自分の頭の中が新たにつながったのです。
「コレがアレか」とつながっている量が多いほど、少ない情報から多くを類推することが可能になります。占い師がパッと見ただけでその人の性格や人生を言い当てるテクニックもこれに近く、究極になると地球のエネルギーの変化を感じ取って変化を予測するというスピリチュアルの世界に行ってしまいます。
学校では、子供は抽象思考をほとんど習わない
勉強すればするほど分断される
私は受験勉強は頑張っていたほうでしたが、この抽象思考は非常に苦手でした。「コレはコレ、アレはアレ」と知識がバラバラに入っていて、深く考えたり自分なりに経験と結び付けたりしていなかったためでした。
そもそも学校では、基本的に知識を科目ごとバラバラに教わり、統合することはほとんどありません。申し訳程度に総合的な学習の時間というのが設けられていましたが、少なくともアラサーな私が学生時代のころには「レクリエーションの時間」として活用されていたと記憶しています。今はどうか分かりませんが。
学校では、どうしても試験をして評価をしなければならない都合があるのでしょう。思考の作法を身に着けるよりも、具体的なことを記憶する勉強に終始しています。
たとえば歴史のテストにしても、「古事記を編纂したのは誰か?」のような具体的な問題がほとんどです。「飛鳥時代と現代に共通するテーマは何か? 自分の考えを答えなさい」みたいな、習っていない問題を出そうものならその先生は大ブーイングを食らうことでしょう。
抽象思考といえば数学ですが、大学の理学部数学科に進むような愛好者でない限りは「パターン」を覚えて「反射神経」で解けてしまうのが高校までの数学です。計算手順を記憶して、それをテストの時に再現する能力が問われているだけで、基本的には記憶力勝負です。
学校の勉強が社会に出てから何の役にも立たないと言われるのは、知識が科目ごと、単元ごとに分断されて繋がっていないからではないかと思います。
知識を統合して知恵にしよう
知識はただ記憶するだけでは使えません。「あ、それ知ってる~」とクロスワードパズルでマニアックな答えは埋められるかもしれませんが、せっかくなら人生に役立てられた方が良いですよね。
知識は、今まである自分の経験や別の知識と結びついた時に血肉となり、自分の知恵になります。
高校生の時に使っていた数学の教科書の最後の方に、「人間は考える葦(あし)である」というパスカルの名言が載っていました。当時の私は、ふむふむ、人間は考えるから植物とは違うよね、と文字通り受け取っていて、背景にそれ以上の意味を感じることはありませんでした。
大人になってからそれなりに人生の経験を重ねてから、パスカルの名言に再会しました。倉下忠憲さんの『「目標」の研究』という本の中に引用されていたのです。
人は考える葦だ。考える葦が考えることを止めてしまったら、それはもう単なる葦でしかない。
その瞬間、背筋がぞわぞわっとなって、胸から熱いものがこみ上げてて、泣きそうな感じになりました。 頭の中で火花が散って、新しい回路ができたのです。
考えている時だけ、問いを持ち続けて思考を巡らせているときだけ、人は人でいられ、真理に近付いていける。私は何も知らない平凡な人間だけれど、自分の思考を疑って、考えることを止めなけば、人でいていいんだ。
何か許されるような、温かな気持ち になることができました。一度つながる感覚がつかめると、次々に体感的な理解が起こりました。それは幸福感を伴う体験です。
高校生の時の私に、「人間は考える葦である」ということについて述べなさい、と言われたら「パスカルっていう人がそう言いました」としか語れなかったと思います。今なら、そのことについて小一時間しゃべることができます。
昔はガリ勉だったので、今よりも記憶している知識の量はむしろ多かったかもしれません。でも、今の方が少ない知識でもつながって深堀りすることができていて、人生が豊かになったように感じます。
抽象化と具体化を行き来するということ
もちろん、具体的なことも大切です。抽象世界に行き過ぎて「宇宙が~」などと壮大なぼんやりしたことばかり考えていて、具体的に何もできなくなってしまっては不都合がありますよね。
理想は抽象と具体を自在に行き来できることです。
物事の本質を見抜き、それを自分の活動に合った形に具体化できれば、教わらなくても自分でノウハウを見つけて活用することができます。
たとえば、アニメをたくさん見ていただけで脚本のノウハウを見つけて自分も脚本を書ける、など。
抽象思考は難しいような感じがしますが、「ぼんやりしてスッキリしない」状態にさえ耐えられれば誰でも練習して身に着けることができます。 次では日常でできる抽象思考のトレーニング方法をご紹介します。
抽象思考を鍛えるトレーニング方法
異質なものを繋げる
ある物を、別の何かに例える練習をしましょう。
異質なものを繋げる抽象思考トレーニング例題
- あなたの目の前の空間を色に例える としたら?
- あなたの人生を数字で表すとしたら?
- あなたのカバンの中にあるものすべてに共通しているテーマ は何?
- 職場の雰囲気を、音楽に例えるとしたら何の曲?
- あなたの仕事がRPGのゲームの一場面だとしたら、今どのあたり?
グラデーションで捉える
白か黒かに分断せずに、グラデーションのまま捉える練習をしましょう。
グラデーションで捉える抽象思考トレーニング例題
- あなたの関わっている人たちの名前を紙に書きます。「会社の人」「友達」のようにグループ分けはせずに 、あなたを中心にして近い人同士は近くに、遠い人同士は遠くになるように配置してください。
- 同じ要領で、ある物やアイディアについて関連する物や事柄を、近い概念のものは近くに、遠い概念のものは遠くに書いてみましょう。たとえば、「水」をテーマにすると次のようになります。
背景をイメージする
言葉や態度に含まれている背景や行間をイメージしましょう。
背景をイメージする抽象思考トレーニング例題
- あなたの周りの人との会話の中で、「今、この人はどうしてこれを言った?」「これはどういう意味で言った?」という背景に意識を向けてみましょう。
- 本を読んだり、映画やドラマを見るときに、「作者はどうしてこれをここに配置したのだろう?」と、製作者の意図をイメージしてみましょう。また、「出てくる風景や小道具に何か隠されたメッセージがあるとしたら何か?」を考えてみましょう。
その時、こうに違いないと決めつけたり、一部分を全部に当てはめたりしないように注意 しましょう。
抽象思考トレーニング入門まとめ
抽象思考とは、物事を抽象化してより本質に近づく方向に考えることです。
抽象思考ができると、異質なもの同士を結びつけて考えられ説明が上手になる、客観視できて問題を解決しやすくなる、行間や背景から情報を得られる、などのメリットがあります。知識と体験が繋がると、人生をより豊かにすることができます。
学校では教わらない抽象思考ですが、鍛えるには日常生活の中でトレーニングをしましょう。
- ある物を何かに例えてみる
- グループ分け・分類をせずにそのままグラデーションで捉える
- 言葉や態度などの裏側の意図、行間や背景に意識を向ける
あなたも抽象思考で今までの景色から、見えていなかった情報を探ってみてください。きっと毎日が新しい発見にあふれ、どうということのない日常が楽しくて仕方なくなりますよ。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。管理人の佐藤想一郎と申します。
私が執筆しました、レポート『Cycle(サイクル)』では、今まであまり語られることのなかった〝引き寄せの法則の、もう1つの側面〟について書いています。
・「ワクワク」のダークサイド(暗黒面)とは
・9割の人が見落とす〝引き寄せられない〟根本原因
・想像すら超えた未来を引き寄せる、運命を変える秘訣
といったことにも触れています。
よろしければ読んでみてくださいね。
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